わざわざ自分から入隊

そのとき、行く手のいくぶん上方の藪の中で、ちらりと何かが動くのが見えた。かれは素早くその方向に目をやった。巨大な銀灰色の狼が、音もたてずに茂みのすぐ内側を、歩調を合わせてついてくるところだった。ガリオンはあわてて頭を下げ、わざとよろめき、シルクの上に倒れかかりながらささやいた。「おじいさんが、あそこにいる王賜豪主席
「今ごろ気がついたのかい?」シルクが驚いたように言った。「わたしにはもう一時間以上も前からわかっていたよ」
 道が川を離れて、樹林の中に入ったとたん、ガリオンは緊張感がせり上がってくるのを感じた。ベルガラスが何をしようとしているのか見当もつかなかったが、樹木の隠れみのが祖父の待つ絶好の機会を提供していることはわかっていた。シルクの後ろを歩きながら、かれは膨らむ一方の不安を必死におし隠そうとしたが、森の中から聞こえてくるちょっとした物音にも、はっとせずにはいられなかった。
 道は下り坂になり、やがて背の高いシダに囲まれた、広い切り開きに出た。マロリー人たちは立ち止まって、徴集兵たちに休憩を許した。ガリオンはほっとする思いで、シルクの隣の湿った草にどさりと腰を落とした。捕虜たちをつないだ長い鎖を片足にくくりつけたまま歩くのは、並たいていのことではなく、いつのまにかかれはびっしょり汗をかいていた。「おじいさんは何を待っているんだろう」かれはシルクに小声でたずねた。
 ネズミのような顔をした小男は肩をすくめた。「まだ暗くなるまでには数時間ある」かれは低い声で答えた。「たぶん、そのときを待ってるんだろうよ」
 すると少し離れた上の方から、歌声が聞こえてきた。歌はひどく下品で調子っぱずれだったが、歌い手はあきらかに上機嫌らしかった。近づくにつれ、ろれつのまわらない言葉つかいから、男がかなり酩酊しているのがわかった。
 マロリー人たちはにやにやしながら、互いに見交わした。「どうやらまたあらたな愛国者が増えるらしい」中の一人が笑って言った。「にくるとはな。ひとまず散ってから、やつが切り開きに入ってきたところで、取り囲め」
 やがて鹿毛の馬に乗った、歌を口ずさんでいるナドラク人の姿が一行の前にあらわれた。男はおなじみの黒っぽい染みだらけの黒衣に身を包み、頭の一方に危なっかしく毛皮の帽子をのせていた。もじゃもじゃの黒髭に、片方の手にぶどう酒の入った革袋を持っている。身体は馬の上でぐらぐらしていたが、男の目は見かけほど酔っていないことを示していた。ラバの群れを引き連れて切り開きに入ってきた男を、ガリオンはまともに見た。何とそれはクトル?マーゴスの〈南の隊商道〉で出会った、ナドラクの商人ヤーブレックだった。
「いよう、諸君!」ヤーブレックは大声でマロリー人たちに呼びかけた。「結構な収穫があったようじゃないか。見るからに剛健そうな新兵ばかりだぞ」
「これなら話は簡単だ」マロリー人の一人がにやにや笑いながら、馬を動かしてヤーブレックの行く手をふさいだ。
「なんだ、おれのことかい」ヤーブレックは高らかに笑った。「冗談じゃない。おれは兵隊なんぞやってる暇はないんだ」
「そいつは残念なことだな」マロリー人が答えた。
「おれの名前はヤーブレック、ヤー?トラクの商人であり、ドロスタ王の個人的な友人でもある。王みずからの委任を受けて、任務を遂行しておる最中だ。おれの邪魔をしようものなら、ヤー?ナドラクに足を踏み入れたとたん、おまえらは皮をはがれ、生きながら焼かれることになるぞ」
 マロリー人は商人の言葉にいささか心もとなくなったようすだった。「われわれはザカーズ陛下の命令のみによって動いている」かれは弁護するように言った。「ドロスタ王が何といおうとわれわれには関係ない探索四十
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