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浪漫的如夢

月光に照らされた

でも考えるほかには、その意味を想像することができなかった。いまわたしは廃墟となった芝生のあたりを左に曲ったが、絵のような夏の月光に輝く海のほうに目を向けたまま、その説明しがたい不知火《しらぬい》の不思議な光をみつめていた。
 いままで感じたこともないほど康泰泰國團強い恐怖の念を心に感じたのはこの時であって――その恐怖のために、わたしの最後の自制心もこっぱみじんに打ちくだかれ、あの荒れ果てた悪魔のような街に面するぽっかりと口を開けた暗闇の戸口や、にぶく光っている窓の前を南のほうへ一目散に駆けだしたのだ。というのも、少し近づいて眺めたとき、暗礁と海岸とのあいだにある月光に照らされている水面には、満々と海水がたたえられており、その水面には、町のほうへ向かって泳いでくる生き物の群れが満ちあふれていたからである。わたしの立っている遙か遠いところから、ほんのちょっと見ただけでも、水から出たり沈んだりする頭や、抜き手を切っているその腕が、なんとも形容の免補加按しようのない、こうといって説明のつきかねる、いかにも異常な、常識では考えられぬ姿をしていることだけははっきりとわかった。
 無我夢中の疾走も、一丁も走らないうちに止めてしまった。というのは左手のほうに、なにか隊を組んだ追手の、獲物を駆りたてるような叫び声が聞こえ始めたからである。それとともに、足音も、喉から出る音も聞こえ、ガタガタという自動車の音がフェデラル街を抜けて南のほうにこだまして行った。たちまちのうちにわたしは計画をかえざるをえなかった。というのは、もしも南に伸びる国道が、行く手をふさがれてしまったとすれば、どうしても別の逃げ道を見つけなければならないからだ。わたしは足をとめると、開けっぱなしの戸口から一軒の空《あき》家に入《は》いり、あの追手のこないうちに、広場を渡ってしまえたのは本当に幸運だったと思い返した。
 つぎに気のついたことは、まことにありがたくないことだった。というのは、追手が別の通りにもでているとすれば、やつらがわたしの背後を直接に追いかけているのではないことは明らかだったからだ。やつらはわたしの姿を見かけたわけではなく、ただ、わたしの逃走を阻止しようとする計画どおりに、行動しているに過ぎなかった。が、これはつまり、インスマウスから外《そと》に通じる道という道は、全部同じように警戒されていることになる。なにぶん、町民たちには、わたしが、どんな径路を辿るつもりであるのかわからない以上、あらゆる道を警戒するという手を打つのは当然だったからである。もしもそうだとすれば、どの道も通らずに、道のない畑や野原を突っ切って逃げなければならないわけだが、このあたりには沼のような掘割が縦横に走っている点にかんがみて、いったいどういうふうにやってのけたらいいのだろうか? しばらくのあいだわたしの頭は、一つにはもうどうにでもなれという絶望感からと、もう一つにはそのあたり一面にただよっているなまぐさい悪臭が急に強くなってきたために、くらくらと目まいを感じた。
 そのときわたしは、むかしロウレイに通じていたという廃止になった鉄道のことを思いついた。そのしっかりとした線路には砂利が敷いてあり、雑草は茂っていたが、それでもまだ川の端にある、崩れた駅から北西のほうへ伸びていた。ことによると、追手の連中は、まだそれに気がついていないかもしれなかった。いばらの密生した荒地は、おいそれと人が通れないようになっていたからでもあるし、逃げるものが、まさかこんな道を卓悅通ろうなどとは考えられなかったからでもある。この鉄道線路は、さっき旅館の窓から眺めておいたし、どういうぐあいに伸びているかということも心得ていた。残念ながら、その線路伝いの道の出はじめのところは、大部分、ロウレイ街道からも、町の高い所からもまる見えになっていた。が、茂みを目だたぬようにこっそり掻《か》きわけることはできそうだった。とにかく、これがわたしの脱出にとって唯一の道であって、他に頼るすべは一つもなく、
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