妻はもう走らない

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妻はもう走らない

にしか読めない。判読できる書きこみから、特定の調査家たちは即物的な公式見解とは大きく異なる結論をいくつかひ

きだしているが、そうした推測は穏健な人びとに信用される見こみがほとんどないものだった。さらにこういう想像力豊かな理論家たちの主張は、迷信深いデクスター医師の行為によって大きな

痛手をうけることになった。デクスター医師は奇妙な箱と角ばった石――発見場所である窓一つない黒ぐろとした尖り屋根のなかでぼんやり輝いていた物体――を、ナラガンセット湾の一番深い

海底に投げこんでしまったのだ。驚くべき痕跡を見いだして深めていった、太古の邪教についての知識により、ブレイクの度をこした想像力と精神面の不安定さが悪化したというのが、日記の最

後に認められる逆上したなぐり書きに対する、最も有力な解釈である。そのなぐり書き――というよりも判読できるもののすべて――を、以下に示しておこう。
 
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 電燈はまだつかない――かれこれ五分はたったはずなのに。稲妻だけが頼りだ。ヤディスよ、稲妻を放ちつづけたまえ! ……稲妻を通して、何らかの感応力が働いているようだ……雨、雷、

風が猛り狂っている……あいつがわたしの心を捕えている……
 記憶が混乱している。まえに知らなかったものが見える。他の世界が、他の銀河が……暗い……稲妻が闇のように、闇が光のように……
 完全な闇のなかに見えるのは本当の丘と教会であるはずがない。閃光のために網膜に映じる残像にちがいない。天よ、稲妻がやむなら、イタリア人に蝋燭をもたせ、家の外へ出させたまえ!
 何を恐れているのだろう。影のつどう太古のケムで人間の姿をとりさえした、ナイアルラトホテップの化身ではないのか。記憶が甦る。わたしはおぼえている。ユゴスのこと、さらに遠いシャ

ガイのこと、そして窮極の虚空の黯黒惑星を……
 翼によって虚空をよぎる長い飛行……光のある宇宙をわたることはできない……輝くトラペゾヘドロンのうちに捕えられた思考によって再現され……燦然と輝く恐ろしい深淵を超えて放たれる

……
 わたしの名前はブレイクだ――ウィスコンシン州ミルウォーキーのイースト・ナップ街六二〇に家をもつロバート・ハリスン・ブレイクだ……わたしはこの惑星にいるのだ……
 アザトホースよ、どうかあわれみを! 稲――恐ろしいことだ――視力ではありえない異様な感覚によって何もかもが見える――光は闇nuskin 如新だ、闇は光だ。……丘の上にいる人び

と……監視……蝋燭と護符……牧師たち……
 距離感がなくなった――遠くが近く、近くが遠い。光がない――ガラスがない――あの尖り屋根が見える――あの塔が――窓が――聞こえる――ロデリック・アッシャーだ――わたしは狂った

か狂いかけている――塔のなかであいつが動きだし歩きまわっている――わたしがあいつであいつがわたしだ――外へ出たい……外へ出て諸力を一つにしなければならない……あいつはわたしが

どこにいるのか知っている……
 わたしはロバート・ブレイクだ。だが闇のなかに塔が見える。恐ろしい臭がする……感覚がとぎすまされている……あの塔の窓の激光矯視 中心板張りが割れて崩れていく……いあ……んがい……いぐぐ……
 あいつが見える――ここへやって来る――地獄の風――巨大なにじみ――黒い翼――ヨグ=ソトホース! 救いたまえ――三つにわかれた燃えあがる眼……
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